熱力学はどのような学問なのか
物理の記事 でも説明したように、物理は、自然界の現象をできるだけ単純な法則・数式で説明するためのものです。

物理とは何なのか?
そもそも、物理学とは何なのでしょうか?物理を学ぶ際には必ず知っていてほしい、物理学の基本的な考え方と実用例について解説します。
熱力学はその中でも、マクロな視点(巨視的な視点) から自然界の現象を説明するための理論になります。
この 「マクロな視点」 というのがとても重要です。熱力学について理解を深めるために、一旦、熱力学以外の分野について考えてみましょう。
例
例えば、力学 は、あくまで 1 つ、もしくは複数の物体(厳密には質点)を対象にし、その物体の運動について考えます。
ボールに注目してその動きを考えたり、二つの物体の衝突について考えたりしますよね。
電磁気学 や 量子力学 なども同様であり、あくまで一つの要素に着目して現象を説明し、それを組み合わせるという手法を取ります。
しかし、現実には無数の物体や現象があり、それを一つ一つ数式や言葉で説明しようとするのは、できないことはないにしても無理があります。
一口にボールと言っても、その性質を決めるのはボールの構成要素、ひいては原子や分子一つ一つのはずです。ボールの「柔らかさ」「形」などは、力学的な性質として考えることも可能ですが、ボールごとに微妙に異なり、究極的には、ボールの構成要素がどのように関わり合っているかによって決まりますよね。
ボールが持つ 「熱さ」 は、ボールの構成要素一つ一つの状態によって初めて理解することができる典型例です。
ただ、力学や他の分野では、構成要素を一から調べるほかに、そのような 「ミクロな構成要素の集まりによって出現する、マクロな性質」を説明することは困難です。
そこで、熱力学は、構成要素がどのような性質を持つかは一旦置いておいて、その要素が無数に集まった集合体がどのようなマクロな性質を持つか、ということを説明するために作られた分野 になります。
要素一つ一つを調べるのはとても面倒くさいから、それは無視して、要素がいっぱい集まったときの性質だけを調べよう!というわけですね。
そして、その性質の例としてよく挙げられるのが、「温度」 や 「熱」、そして 「エントロピー」 といった用語です。熱力学では、このような物理量が主役になってきます。
注意点
ここで一つ注意点ですが、熱力学は、「無数の要素の集合体」の性質について説明するものであり、構成要素自体がどのような性質を持つのか、という点は制限していません。
つまり、構成要素の状態が何であれ(気体だろうが、固体だろうが、混ざっていようが、もっと他の要素から出来ていようが)、 その マクロな性質は熱力学で普遍的に説明する ことができます。
つまり、熱力学は、「無数の要素の集合体」において共通して成り立つ性質を説明する学問と言うことができるのです!
※ より厳密には、熱力学は基本的に「平衡状態」の系を扱う学問になります。
- 熱力学は、「無数の構成要素の集合体」 を扱う
- 熱力学は、構成要素の詳細には踏み込まず、「無数の要素の集合体」において共通して成り立つ性質 を考える
- 扱う物理量の典型例は、「温度」 や 「熱」 、「エントロピー」 など
熱力学の利用例
熱力学は日常でどのように応用されているでしょうか。
熱力学は 「無数の要素の集合体」 で成り立つ性質を議論しますが、その性質を感覚に落とし込むと、主に 「熱さ」 を扱う学問と言えるでしょう。
そして、熱力学では、「熱さ」と他の物理量、例えば「エネルギー」や「エントロピー」、そして「熱」や「仕事」といった量との関係を説明するもの になっています。
つまり、「熱さ」を変化させたり、「熱」や「仕事」を取り出したり、といったことを定量的に扱うことができるわけです。
具体的な例をいくつかあげてみました。
例
- エンジンや発電機:燃料を燃やして熱エネルギーを発生させ、それを運動エネルギーに変換する。すなわち、燃焼により生じた「熱」を集合体(主に空気)に加えて状態を変化させ、「仕事」として取り出す。
- 冷蔵庫やエアコン:減圧機や圧縮機によって空気の温度を変化させて、所望の温度の空気を室内に流し込む。すなわち、集合体(ここでは空気)に「仕事」を行うことで、その「熱さ」を変化させる。
- 化学反応:化学反応が進むかどうかは、反応前後の物質の「エネルギー」と「エントロピー」が重要となる。そして、そのような量を定量的に考えることによって、その反応が起こるかどうかが予測できる。つまり、熱力学は、所望の物質を得る過程で非常に強力な理論となる。
このように、熱力学は、感覚的には「熱さ」と関わる現象を説明し、日常に有用なシステムを実装するために必要な理論 になっています。
熱力学を厳密に説明するには高度な数学の知識が必要なため、100% 理解することはなかなか難しいですが、その 「気持ち」 だけでも知っておくと良いかもしれません。