物理の記事 でも説明したように、物理は、自然界の現象をできるだけ単純な法則・数式で説明するためのものです。

物理とは何なのか?
そもそも、物理学とは何なのでしょうか?物理を学ぶ際には必ず知っていてほしい、物理学の基本的な考え方と実用例について解説します。
その中でも マクスウェルの方程式 は、電気 と 磁気 の性質を説明するための方程式であり、運動方程式と並んで最重要な方程式の一つです。
具体的には、電荷、電場、電流、磁場 の関係性を数式で表現する方程式となります。
この記事では、複雑なマクスウェルの方程式の本質を、なるべくわかりやすくかつ論理的に解説します。
電磁気学のそもそも
電磁気学については、こちら の記事で詳しく解説しているので、 電磁気学の概要について知りたい場合は、そちらを先に読んでみてください。

電磁気学の気持ち
電磁気学とはどのような分野なのか?電磁気学の本質と実用例をわかりやすく解説します。
ここでは、その中でも大事なことを抽出します。
- 電荷 は物体が持つ電気で、物体内の電子と陽子の数の差によって決まる。
- 電場 は 電荷 によるオーラで、空間中のどの位置にも定義される。
電荷 が位置 にあるとき、位置 における真空中の電場 は、以下のように表される。
- 電流 は電気の流れで、電子の移動によって生じる。
- 磁場 は 電流 によるオーラで、空間中のどの位置にも定義される。
電流 が位置 の微小区間 に流れているとき、その電流素片による位置 における真空中の磁場 は、以下のように表される。
ここまでが、電磁気学を考える上で必須の 「電荷」「電場」「電流」「磁場」 についての簡単な定義と関係性です。
しかし、実はこの式は、電荷や電流が時間変化しない場合の式 にあたります。実際の世界では、電荷や電流は時間変化することが多いので、それを考慮したいです。
- 時間変化しないのは、電気回路で電流一定の場合などでしょうか。
そこで、これらの関係性にプラスして、電荷と電流の 時間変化 を考えて、 「電荷」「電場」「電流」「磁場」についての関係性を数式でまとめたもの が、マクスウェルの方程式 になっています。
ただ、まずはこれまでの 時間変化がない場合の関係性 を整理する必要があるので、そこから始めましょう。
電荷と電場の関係
まず、電荷と電場の関係性を整理します。 端的には、以下の数式が成り立つということでした。
が電場、 が電荷でしたね。 しかし、この式は 1 つの電荷 による電場しか表していません。そこで、空間中の全電荷を考慮した式 を作成しましょう。
ここで、位置 における 電荷密度 を導入します。質量を考えるときに密度を導入したように、電荷も電荷密度というものを考えるわけです。
例えば、電荷密度 の空間が あると、その空間には の電荷が含まれています。 質量と密度の関係と全く同じです。
そして、これを数式で表すと となります。
積分が出てきてややこしいですが、空間の電荷密度を足し合わせると、電荷になる ということを表すだけの式です。
例えば質量も、密度を とすれば、 と表されます。
さて、電荷と電場の関係式を、これを用いて書き直しましょう。すると、以下のようになります。
イメージとしては、ある位置 にある電荷による電場を、積分によって全ての位置にわたって足し合わせている、という感じでしょうか。
これが、一般的な 電場と電荷が満たす関係式 となります。(これ自体をクーロンの法則と呼ぶこともあります)
ガウスの法則
ただ、この式と等価な式として使われるものがもう一つあります。それが、下記の二つの数式です。特に、一つ目の式は ガウスの法則 と呼ばれています。
なぜ、この二つの数式を合わせると先程の式と等価になるのかは、式変形が複雑なため省きますが、それぞれの式のイメージは以下の通りです。
- ガウスの法則:電荷の値に応じて、どのように電場が電荷を中心に広がっているかを表します。 は、 とも書かれ、発散 を表します。
- :電場の広がり方を規定し、ここでは、直感的には 渦状にはならないこと を表します。 は、 とも書かれ、回転 を表します。
これらの式を合わせれば、「電場は電荷の大きさに応じて、電荷から放射状に広がってるよね」 ということを表せるというわけです。

今の所、難しい上に恩恵がないため、このような式変形の嬉しさはわからないですが、後々、マクスウェルの方程式を作成する際に重要になってきます。
- 電磁気学が難しいと言われる所以は、このようなベクトル解析を使った微積分が多いことによります。 そのため、特に初学者であれば、数式を理解することよりもその背後の物理的なイメージを持つことの方が重要かもしれません。
電流と磁場の関係
次に、電流と磁場の関係性を整理します。 端的には、以下の数式が成り立つということでした。
が磁場、 が電流でしたね。 しかし、この式も 微小な区間の電流 による磁場しか表していません。そこで、空間中の全電流を考慮した式 を作成しましょう。
同様に、位置 における 電流密度 を導入し、式を変形すれば、以下のようになります。
これが、一般的な 磁場と電流が満たす関係式 となります。(これ自体をビオ・サバールの法則と呼ぶこともあります)
さらに磁場についても、発散 の式と、回転 の式を考えていくと、以下のようになります。 一つ目の式は ガウスの法則、二つ目の式は アンペールの法則 と呼ばれています。
こちらも、なぜ先程の式と等価になるかの説明は省きますが、それぞれの式のイメージは以下の通りです。
- ガウスの法則:ここでは、磁場は発散がないことを表します。言い換えれば、磁場を発するような磁荷が存在しないこと を表します。
- アンペールの法則:電流の値に応じて、どのように磁場が渦状に広がっているかを表します。
これらの式を合わせれば、「磁場は電流の大きさに応じて、電流を中心に渦状に広がってるよね」 ということを表せるというわけです。

ここまで、時間変化がない場合 の、電荷と電場、電流と磁場 についてその関係性を整理しました。まとめておきましょう。
電荷 と 電場 の関係性(それぞれが等価):
- ガウスの法則 と 電場の回転が 0
電流 と 磁場 の関係性(それぞれが等価):
- ガウスの法則 と アンペールの法則
最後に 時間変化のある場合 の関係性を整理して、マクスウェルの方程式を完成させます。 数式は多いですが、頑張っていきましょう。
時間変化がある場合
関係性を書き直すために、実験事実による二つの法則を導入します。この二つは、時間変化がある場合 にも成り立つ法則です。
- 電荷保存則:電子の合計は変化しない。
- レンツの法則:磁場の変化によって、磁場の変化を抑制するような電流が生じる。
それぞれについて説明していきましょう。
1. 電荷保存則
電荷保存則は、電子の合計化は変化しない という法則です。
突然電子は湧いたり無くなったりすることがないというので、直感的にも理解しやすいと思います。
これを数式で表すと、以下のようになります。
電荷保存則
任意の位置 における電荷密度 と電流密度 に対して、以下の式が成り立つ。
これまた難しい数式ですが、イメージは以下の通りです。
- :ある位置 における "電荷" が時間経過でどれだけ増えるか
- :ある位置 における 電流の発散がどれだけあるか
つまり、ある位置において 電流として出ていった分 だけ、 電荷が減る というわけです。 (逆に、電流が流れ込むなら、その分の電荷が増えます。)
そうでないと、急に電子が増えたり減ったりすることになってしまいます。
アンペール・マクスウェルの法則
そして、この式を先程整理した式のうち、アンペールの法則 に組み込みましょう。
アンペールの法則は、 でした。 これに、電荷保存則を組み込んで拡張すると、以下のようになり、アンペール・マクスウェルの法則 と呼ばれます。
アンペール・マクスウェルの法則
任意の位置 における磁場 、電場 、電流密度 に対して、以下の式が成り立つ。
これまた数式の導出は省きますが、新たに、 という項が追加されています。 これは、端的にいうと、電場が時間変化すると、磁場が生じる ということを表しています。
つまり、電流 だけでなく 電場 も、磁場が生じる原因になるということです。
- 電荷保存則には「電荷」と「電流」しか登場しないのに、アンペール・マクスウェルの法則に「電場」が登場するのは不思議かもしれません。 しかしこれは、途中の式変形で、電場のガウスの法則 を使っているためです。
2. レンツの法則
次に、レンツの法則について説明します。
レンツの法則は、磁場の変化によって、磁場の変化を抑制するような電流が生じる という法則です。
例えば、ある円形のコイルを通過する磁場が増加すると、その増加を抑制するような電流がコイルに生じます。図のようなイメージです。 (図はこちらより引用)

- 磁場が増加したことにより、電流が生じています。これが、レンツの法則 です。
- さらに、この電流は、ビオ・サバールの法則(もしくは アンペールの法則)によって、下向きの磁場を作り、磁場の増加を抑制する働きをします。
ファラデーの電磁誘導の法則
そして、この法則を数式で整理すると、以下のようになり、ファラデーの電磁誘導の法則 と呼ばれます。
ファラデーの電磁誘導の法則
任意の位置 における磁場 、電場 に対して、以下の式が成り立つ。
これまた、数式の導出は省きますが、電場の回転が 0 であるという という式を拡張したものとなっています。
イメージとして、確かに、磁場が増加する とき、 磁場を抑制する方向(つまり時計回り)の電流を生む電場が生じる ことがわかります。
- レンツの法則では「電流」と「磁場」しか登場しませんが、ファラデーの電磁誘導の法則には「電場」が登場します。 これは、厳密には、「磁場」によって「電流」が発生するのではなく、「磁場」によって「電場」が発生して「電位差」が生じることで「電流」が流れるためです。 しかし、「電位」を説明していないため、ここでは省略して説明しています。
ここまで、お疲れ様でした。それでは、時間変化がある場合 の関係性を整理しましょう。
電荷保存則 と アンペール・マクスウェルの法則:
- 電荷保存則
- アンペール・マクスウェルの法則(電荷保存則を満たす式)
レンツの法則 と ファラデーの電磁誘導の法則:
- レンツの法則
- 磁場の変化によって、磁場の変化を抑制するような電流が生じる。
- ファラデーの電磁誘導の法則(レンツの法則を満たす式)
これでようやく、時間変化がある場合 の電磁気学の関係性を整理できました。
それでは、最後に、これらの関係性をまとめて、マクスウェルの方程式 を完成させましょう。 といっても、マクスウェルの方程式は、先程の関係性をまとめるだけです。
マクスウェルの方程式
マクスウェルの方程式
任意の位置 における電場 、磁場 、電荷密度 、電流密度 に対して、以下の式が成り立つ。
- :電場のガウスの法則
- :ファラデーの電磁誘導の法則
- :磁場のガウスの法則
- :アンペール・マクスウェルの法則
これが、電磁気学における基礎方程式となっている マクスウェルの方程式 です。
といっても、これまでの関係性を整理しただけなのに、なぜわざわざ名前をつけているの?と思うかもしれません。
しかしこれは、厳密にはこれらの関係性は 「導出」 できているわけではないため、 マクスウェル方程式を出発点として、電磁気学の理論を構築する ことを目指すのが、電磁気学のスタンダードとなっているためです。
つまり、この方程式は正しいものとして受け入れて、それ以外の現象すべては、この方程式を元にして説明しようとするのが、電磁気学の考え方です。
もう少し言い換えると、 「電荷」「電場」「電流」「磁場」をマクスウェルの方程式を満たすものとして定義して、そこから電磁気学の理論は構築される というように言えます。
ともあれ、これにて、電磁気学を構築する基礎方程式である、マクスウェルの方程式が完成しました。
複雑な数式が多く、わからない所も多いかもしれませんが、 マクスウェルの方程式は、電気的・磁気的な現象 を説明するための「電荷」、「電場」、「電流」、「磁場」の関係性を数式で表現したもので、電磁気学の出発となる方程式である ということだけでも覚えてもらえると良いのかな、と思います。
今回の記事はここで終わりとしますが、今回のマクスウェルの方程式は、実は、真空中の場合 に成り立つ式となっています。 物質中では、さらに複雑な方程式が必要となるのですが、それはまた別の機会に説明しましょう。(といっても、今回ほどは難しくありません)