物理とは何なのか?

2025/2/3
2025/2/3

とても主語が大きいですが、今回は、「そもそも物理ってどのような学問なのか」ということについてまとめました。

物理を勉強するにあたって、「何のために勉強するのか?何の役に立つのか?」という疑問に答えるものになっているのではないかと思います。

なるべく客観的に納得できる説明を心がけていますが、一方で、理解のしやすさのために厳密でない説明をしている部分もあります。


物理学とは

物理学は自然科学の一種で、自然科学を一言で言えば 「自然界のあらゆる現象を統一的かつ体系的に記述して説明することを目指す学問」 です。

その中でも物理学は、一見すると複雑怪奇な自然界の物質の動きをできるだけ単純な法則・数式で説明し、 自然界の根底にある普遍的な仕組みを解明することを目指します。

そして、自然界の根底にある普遍的な仕組みを解明することで、人間にとって有益なもの(建物、スマホ、車、電気、……) を作ることができるようになるわけです。

「化学もそうじゃないの?」と言われると確かにその通りで、厳密な線引きは難しいのですが、

  • 化学:物質の基本構成要素(原子や分子)単位での変化や相互作用から、物質の性質や変化を論理的に記述しようとする学問
  • 物理:物質の違いにはあまりこだわらず、物質に普遍的な性質を単純な法則・数式で記述しようとする学問

という違いがあるのではないかと思います。


物理学の構築

次に、物理学がどのようにして作り上げられたかについて説明します。

1. 自然界を観察する

まずは、自分達が生きている世界で観測を行い、観測事実を集めます。

  • 例:りんごは木から落ちる

たまたま見つかる場合もありますし、こういう事実があるのではないか?と予想して見つかる場合もあります。

これは物質に関する現象であれば、どのようなものでも構いません。

2. 観測事実から仮説を立てる

観測事実が十分に集まったらそこから仮説を立てます。

先の例だと、例えば「りんごは木から落ちる」というのが考えられます。 この際、仮説はどのようなものでも問題ないですが、以下の条件を持つことが望ましいです。

1. 多くのことを説明できる

仮説として、「りんごは木から落ちる」をそのまま用いたとしても問題ありませんが、それでは広がりがありません。できるだけ一般的・包括的な仮説を立てること に意味があります。

  • 例:「物体はすべて落ちる」

現時点では、合っているか間違っているかは問いません。正しそうな仮説を立てれば大丈夫です。

2. 条件を明確にする

この仮説が対象にしている範囲を明確にすることも重要です。「物体はすべて落ちる」は、宇宙空間では成り立つのでしょうか? 風船のように落ちない物体はどう考えれば良いでしょうか?

このような状況にも適応できるように仮説を書き換える、または制約をつけることが必要です。

  • 例:「空気の影響を考えなくて良い時、全ての物体は地面に引きつけられる」

また、条件を明確にするというのは、用語の定義を行うことにも繋がってきます。

  • 例:「物体とは、”重さ”を持ち、”大きさ”を考えなくても良いものとする。」
3. 数式で定式化できる

自然界を体系的に記述するには、数式が不可欠です。 「物体はすべて落ちる」だと、ある程度一般的なことは言えていますが、これ以上のことは言えません。

定式化して、数学的な同値変形を繰り返すことによって、新たな事実を導くことができます。
例えば、(力学的)エネルギー保存則と運動の法則は別々に発見されたものですが、互いに密接な関係であることが数学的な変形でわかりました。

そこで、「物体はすべて落ちる」は、例えば以下の様に記述できます。

  • 「物体は、地球から “距離” の 2 乗に反比例する “力” を受ける: F=kr2F= \frac{k}{r^2}kk は比例定数)」

この時、「 2 乗」というのは観測を繰り返すことでわかる事実です。また、「距離」や「力」といった用語もきちんと定義する必要があります。

3. 仮説を検証する

仮説を立ててみたら、それを検証します。その手法の一つが 「実験」 です。
大抵の場合は一筋縄ではいかないので、 2 に戻って仮説を再検討したり、1 に戻ってより広範囲の状況で観察してみたり、といったことが必要になります。

  • 例:様々な物体で観察してみる、様々な高さから落として試してみる、”力”の測定を行う

この段階を、どれだけ緻密に行えるかがとても重要になってきます。

4. 論理的に構築していく

1 ~ 3 を繰り返して、この仮説は確からしいということがわかったら、それを自然界を記述する 法則 とします。

その後は、その 法則 のみを拠り所にして、論理的に数式の変形によって理論を発展させます。 この際には 「観測事実」もその他の仮定も必要ありません。

そのようにして、作り上げられるものの結晶が、物理学となるのです。

例えば、ニュートン力学と呼ばれる分野は、運動の法則と呼ばれる法則のみを拠り所にして、後は数式の変形によって物体の様々な運動が記述できるような理論が展開されますし、 電磁気学と呼ばれる分野は、マクスウェルの方程式と呼ばれる法則を出発点とした理論が構築されています。

そしてそのようにして構築された理論から、現在の物質の状況の観測できない部分を推測したり、 今後の動きを予測したりすることができるようになるというわけです。(この部分は、後の「物理学の利用」で例を出しています)

またその後、観測技術の進歩などによって、自然界の「観測事実」と矛盾することがわかり、 新たな法則を元にした理論が出来上がったり、同じ事象を別の法則から説明する理論が登場したり、といったことも行われ続けます

  • 例:古典力学は光速に近い環境では矛盾することがわかり、相対論が登場した
  • 例:熱力学を新たに捉え直すものとして、統計力学が登場した

このような流れを気が遠くなる程まで続けることで、現在の物理学が構築されています。

しかし、教科書的には、「方程式」= 「法則」 が天から与えられることが多く、 その方程式を絶対のものとして「4. 論理的に構築していく」のみを授業などで行うことが多いです。

しかし歴史的には、数多くの実験、そして ”間違った法則や理論” の積み重ねによって、今の美しい物理学の体系が出来上がっているというわけです。


物理学の利用

最後に、物理学が現実でどのように利用されているかを列挙して終わりたいと思います。
ここでは、二つの観点から分類して例を挙げます。

1. 現在を解析する

物理学を使うと、人間の目に見えないものや複雑すぎて直感的にわからないものであっても、その構造や動きを理論的に推測することができます。

その結果として、従来人間が直感的に行っていたことを理論的に行ったり、全く人間ができなかったことを実現したりすることができるのです。
以下に身近な例を挙げました。

  • 人間の動作を力学を通じて解析して理解する → スポーツの練習法などに応用されている
  • 声がどのようにして作られているか、伝わるかを物理を通して理解する → 人口音声や音声認識に応用されている
  • 光がどのようなものかを電磁気学や光学を通して理解する → LED など光デバイスの作成や、Wi-Fi, 5G といった通信技術に応用されている
  • 原子や分子レベルの小さいスケールの性質を量子論によって定式化する → スマホなどほとんどの電子機器で利用される半導体の製造に応用されている

2. 将来の動きの予測

さらに物理学を使うと、物質、ひいては この世界の将来の動きを予測すること ができます。

予測と呼ばれるほとんどのものは何かしらの形で物理が絡んでいるといっても過言ではないかもしれません。
以下に身近な例を挙げました。

  • 流体力学の方程式を用いて明日の天気を予報する
  • 力学や相対論を利用して、ロケットを飛ばす軌道を計算する
  • 電磁気学を利用して、どのように電気を流せば望みのモーターの動作が得られるかを予測する
  • (機械系の)力学の理論を利用して、どのようにすれば機械が望みの動作をしてくれるかを計算して設計を行う
  • 力学の中でも構造力学などの理論を利用して、どのように建物を設計すれば地震で壊れないかを計算する

このように、パッと考えるだけでも例はたくさんありますが、他にも、世の中は物理の理論を使ったもので溢れ返っています。 探してみて、どんな物理の理論が関わっているのかを考えてみるのも面白いかもしれません。