熱力学第一法則の気持ち

2025/2/18
2025/2/18

この記事では、熱力学第一法則について説明します。

熱力学の基本の定義

熱力学には大きく分けて、熱力学第一法則熱力学第二法則 があり、この二つの法則といくつかの基本的な定義のみによって、熱力学が構築されます。

まず、法則を考える前にいくつか定義を置きましょう。

  • :対象とする、無数の要素の集合体
  • 体積 VV:系の大きさ
  • 圧力 PP:系にかかる単位面積あたりの力
  • 温度 TT:系の「熱さ」を表す単位。熱力学では、体積と圧力から自動的に決まる

「系」 は、熱力学が取り扱う、無数の要素の集合体です。
ここについて詳細を知りたい場合は、熱力学の記事 を参照してください。

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熱力学の気持ち

熱力学とはどのような分野なのか?熱力学の本質と実用例をわかりやすく解説します。

「体積」「圧力」 は、力学によって定義される量をそのまま使います。
「圧力」 は、「系」にかかっている力とほぼ同じように考えて大丈夫です。 「系」の大きさなどによって同じ力でもその影響力は異なるので、それを差し引いているというイメージでしょうか。

そして、熱力学の主役の一つである 「温度」 なのですが、これは驚きですが、体積と圧力から自動的に決まる量 と定義されています。 (異なる定義方法もあります)

感覚的にはとても不思議ですが、系の体積と圧力から計算することによって、人間が感じる系の「熱さ」と対応する「温度」 を考えることができるのです。

例えば、古い温度計は、どこまで液体が上に伸びるか( = 体積)を用いて温度を表現していますよね。

温度計

※ 厳密には、理想気体を仮定し、理想気体の温度を T=PVNRT = \frac{PV}{NR} で定義し、その他の系は、理想気体の系と平衡状態にさせたときの理想気体の温度を考え、それを系の温度とする、といった方法が取られます。

このような簡単な定義の他に、熱力学では 「内部エネルギー」 という概念があります。これについて見てみましょう。


内部エネルギー

熱力学第一法則では、「熱」の定義を行います。
が、その前に、まずは “熱” のやり取りがされない場合の系の変化 について考える必要があります。

ここではまだ “熱”は定義されていないので、厳密には、外界の温度と系の温度に関係性がない場合、と解釈すれば大丈夫です。

考え方

外界からの影響で、系の体積と圧力が変化した場合を考えましょう。この時、力学での考察から、系にした 「仕事」 というものが定義できます。 一番単純なのは、系を圧縮したり、膨張させたりする場合です。
仕事は、外界からの「力学的な」影響の大きさ と思えばいいでしょうか。

そして、その「仕事」の大きさは、系の前の状態と系の後の状態のみに依存することが実験で確かめられました。

つまり、どんな仕事をしようが(系をゆっくり圧縮しようが、一度膨らませてから縮めようが、……)、仕事の大きさは系の変化の前後の状態を観測すればわかる ということです。

そこで、任意の系について、「内部エネルギー」 というものが定義されます。

内部エネルギーは、系の体積と圧力のみによって決まるもので、 系の変化の前後の内部エネルギーの差が、外界がした仕事に対応するように定義されます。

(これは、先ほどの「仕事の大きさは系の変化の前後の状態を観測すればわかる」という実験事実に基づいています。)

厳密に書くと、以下の通りです。

内部エネルギー

内部エネルギー UU という状態量が存在し、 任意の断熱過程で系が状態 A=(PA,VA)A = (P_A ,V_A) から状態 B=(PB,VB)B = (P_B ,V_B)まで変化するとき、系がされた仕事は W=U(PB,VB)U(PA,VA)W = U(P_B,V_B)−U(P_A,V_A) と書ける。

ここまで、厳密で少し難しい説明になってしまったので、説明し直してみましょう。

ざっくり理解するならば、「内部エネルギー」は、系の体積と圧力によって決まる、「系が持つ潜在的な能力」 と考えれば大丈夫です。
「エネルギー」 という言葉にイメージがつく場合は、それでも構いません。これが、「仕事」をされること によって大きくなったり小さくなったりするというわけです。

そして逆に、「内部エネルギー」が大きい系ほど、外界に対して「仕事」をする能力が蓄えられている というわけです。


熱力学第一法則

さあ、ここから、やっと熱力学第一法則が構築できます。

考えるのは、外界と “熱” のやり取りを行う時 です。この時は、「仕事 = 内部エネルギーの差」とはなりません。 そこで、「仕事 + 熱 = 内部エネルギーの差」となるように、「熱」を定義 します。とても単純ですね。

厳密に書くと、以下の通りです。

熱力学第一法則

内部エネルギー UU という状態量が存在し、系が状態 A=(PA,VA)A = (P_A ,V_A) から状態 B=(PB,VB)B = (P_B ,V_B)まで変化する任意の過程について、 外界が系にする仕事 WW と、外界から系に移動する熱 QQ の和は、以下のような関係式を持つ。

W+Q=U(PB,VB)U(PA,VA)W +Q = U(P_B,V_B)−U(P_A,V_A)

こちらもざっくりと説明してみると、次のようになります。

「系」が変化する要因としては「仕事」と「熱」があって、「仕事」は、いわゆる「力学的な」外界からの影響 のこと、「熱」は「熱さが伝わる」ことによる外界からの影響 のことである。
そして、「仕事」「熱」と系の「内部エネルギー」は単純な式で結ばれる。

例えば、気体やら物体やら( = 系)があったとして、それを外から膨らませたり縮ませたりした場合、外界から「仕事」をしたことになります。一方で、それを「温めたり」「冷ましたり」した場合、外界から「熱」を与えたことになります。

そのどちらの場合も、「仕事」や「熱」の量によって、系の状態が変化し、その変化量は内部エネルギーのによって記述できる、というわけです。

ここまでが、熱力学第一法則になります。

実用例

だから何やねん?と思う方もいるかもしれませんが、熱力学第一法則は、内部エネルギーの具体的な形を実験から求めることによって、日常的にさまざまな場所で使われています。

例えば、どの程度「熱」を与えれば、どの程度「仕事」が生じるのか、というのを理解するのは 「エンジン」の設計 には不可欠です。

逆に、どのように「仕事」を与えれば、どの程度「熱」を減らせるか、というのを理解するのは 「エアコン」の設計 には不可欠です。

さらに、大気の状態についても、もちろん熱力学第一法則が成り立っているため、天気を予報する、すなわち大気がどのように変化するかを予測する上では、 熱力学第一法則を用いることが必須となっています。

そして、熱力学第二法則と組み合わせることによって、さらに強力な事実を次々と導けるようになってくるわけですが、これはまた別の機会に説明しましょう。