波動関数の気持ち【量子力学】

2025/2/26
2025/2/26

量子力学における波動関数について、その性質と役割をわかりやすく説明していきます。また、その過程でシュレーディンガー方程式についても触れていきます。

波動関数とは

波動関数とは、一言で言えば、量子力学において 量子の性質を表す数式 であり、最も重要と言っても良い概念です。

量子力学では、「位置」や「速度」といった物理量は基本的に定まりません。そこで、それらの代わりに、波動関数を用います。
力学における、「位置」や「速度」、「エネルギー」などのほとんどの物理量は、量子力学では 波動関数 を中心に表現できてしまいます。

つまり、波動関数さえわかれば、粒子の性質に関するほぼすべての情報が得られる というわけです。 一方で、「位置」や「速度」と異なり、波動関数自体が物理的な意味を持つわけではない点には注意が必要です。

量子力学の特徴については、こちら の記事で詳しく解説しているので、 量子力学そのものをまず知りたい場合は、そちらを先に読んでみてください。

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量子力学の気持ち

量子力学とはどのような分野なのか?量子力学の本質と実用例をわかりやすく解説します。


シュレーディンガー方程式

波動関数の満たすべき式が、 シュレーディンガー方程式 です。運動方程式やマクスウェル方程式と同じく、その分野における基礎方程式となっています。

まずは、この方程式から、波動関数について理解していきましょう。 ただし、以降では、波動関数を ψ(r,t)\psi(\bm{r}, t) ("プサイ" です) と表記します。

波動関数は、位置 r=(x,y,z)\bm{r} = (x,y,z) と時刻 tt に対して値を持つ関数です。 つまり、ある粒子の波動関数は、ある時刻のある地点に対して、それぞれ値を持っている ということです。

  • 例えば、ある粒子について、時刻 t=0t=0、位置 r=(0,0,0)\bm{r} = (0,0,0) で波動関数の値は ψ((0,0,0),0)=\psi((0,0,0),0) = 〇、r=(1,0,0)\bm{r} = (1,0,0) で波動関数の値は ψ((1,0,0),0)=\psi((1,0,0),0) = △ といった具合です。(実は、波動関数の値の範囲は複素数です。)
  • 身近な例で言えば、ある時刻のある地点における温度は一つに定まるよね、という感じです。この場合、温度 T=f((x,y,z),t)T = f((x,y,z),t) という感じでしょうか。 ただし、波動関数の場合、粒子ごとに波動関数が存在し、粒子ごとに値を持ちます。

次に、波動関数そのものが意味を持つわけではないことを念頭に置きつつ、具体的に シュレーディンガー方程式 を見ていきます。

シュレーディンガー方程式

波動関数 ψ(r,t)\psi(\bm{r}, t) が満たすべきシュレーディンガー方程式は、以下のように表される。

iψ(r,t)t=(22m2+V(r))ψ(r,t)i\hbar \frac{ \partial \psi(\bm{r}, t)}{\partial t} = \left(-\frac{\hbar^2}{2m} \nabla^2 + V(\bm{r})\right) \psi(\bm{r}, t)

色々記号があるため、一つずつ解説していきます。ただ、これらの記号をすべて理解する必要はありません。 特に、このような数式を扱ったことがない場合は、飛ばしてしまっても大丈夫です。

  • mm:粒子の質量です。例えば電子を扱う場合は、m=9.11×1031 kgm = 9.11 \times 10^{-31}~\text{kg} です。
  • ii:虚数単位です。物理学ではよく虚数を使います。
  • =1.05×1034 Js\hbar = 1.05 \dots \times 10^{-34}~\text{J}\cdot\text{s}ディラック定数 と呼ばれる定数です。あまり気にしなくて大丈夫です。
  • V(r)V(\bm{r}):粒子におけるポテンシャルエネルギーです。力学における位置エネルギーと同じです。周りの環境を反映するもの と捉えればいいでしょう。
  • t\frac{\partial}{\partial t}:時間に関する 偏微分 を表します。時間変化を考慮するためのもの と捉えればいいでしょう。
  • 2=2x2+2y2+2z2\nabla^2 = \frac{\partial^2}{\partial x^2} + \frac{\partial^2}{\partial y^2} + \frac{\partial^2}{\partial z^2}ラプラシアン と呼ばれる微分演算子です。空間に対して微分します。位置変化を考慮するためのもの と捉えればいいでしょう。

複雑すぎてよくわからないかもしれませんが、大事なのは、波動関数 ψ(r,t)\psi(\bm{r}, t) はこの方程式を解くことによって求められる、 すなわち、粒子の性質はこの方程式さえ解けばわかる ということです。

運動方程式を解けば、物体の運動(つまり、物体の位置や速度)がわかるのと同じですね。

ただし、この方程式を解くことは簡単ではなく、状況に応じた条件や近似を用いて解いていくことになります。

また、急にこのような式が出てきて、この式の "気持ち" というか、どうやって導き出されたのかを知りたいと思うかもしれません。 しかし、この式を "導く" 過程はかなり複雑で、仮に導いたとて直感的な理解は難しいので、ここでは割愛します。

  • 物理におけるほとんどの式は、直感的に理解することは不可能です(力学の一部の式が例外でしょうか)。 そのため、その式を感覚で理解しようとするよりも、それが何を表す式なのか何がそこから言えるのか を理解することが大事です。

ここまでは、波動関数の求め方を説明しましたが、知りたいのは波動関数の値ではなく、粒子の性質 です。 最後に、波動方程式からどのように粒子の性質を求めるのか、について説明します。


波動関数から粒子の性質を求める

1. 確率密度

波動関数から求められる代表的な値は、確率密度 です。これは、波動関数の絶対値の二乗 ψ(r,t)2|\psi(\bm{r}, t)|^2 で表されます。

確率密度 とは、ある時刻 tt において、位置 r\bm{r} に粒子が存在する確率を表します。
例えば、ψ((1,0,0),0)2=0.1|\psi((1,0,0),0)|^2 = 0.1 ならば、時刻 t=0t=0 において、位置 (1,0,0)(1,0,0) に粒子が存在する確率は 10%10\% ということです。

(厳密には、離散的か連続的かによって少し違いがあります)

量子力学では、「この位置に粒子がある」と言えない代わりに、「この位置に粒子がある確率は x%x\% である」 とは言うことができ、 それを 確率密度 として表現しています。力学における位置の代わりと思えばいいでしょう。

2. 任意の物理量の期待値

例えば、運動量 ( \approx 速度 ) も波動関数から求めることができます。ただし、確定値ではなく、期待値 として求められます。

運動量の期待値

波動関数 ψ(r,t)\psi(\bm{r}, t) から求められる運動量の期待値 p\langle p \rangle は、以下のように表される。

p=ψ(r,t)(i)ψ(r,t) dr\langle p \rangle = \int \psi^*(\bm{r}, t) \left(-i\hbar \nabla\right) \psi(\bm{r}, t)~d\bm{r}

空間積分が含まれていて、式自体は難しいですが、ここで着目して欲しいのは、運動量の期待値は波動関数のみから求められる ということです。 確かに、使っている記号は、ψ(r,t)\psi(\bm{r}, t) 以外は、ii\hbar といったわかっている量のみです。

さらに、実は、任意の物理量の期待値は、波動関数から求めることができる ということが知られています。

その形は、すべて ψ(r,t) (物理量に応じた式) ψ(r,t) dr\displaystyle \int \psi^*(\bm{r}, t) ~\text{(物理量に応じた式)}~\psi(\bm{r}, t)~d\bm{r} という形になります。

運動量の場合は、「物理量に応じた式」は i-i\hbar \nabla です。これを、演算子 と呼んでいます。 運動量の演算子は i\displaystyle -i\hbar \nabla というわけです。

そして、位置の演算子は r\bm{r}エネルギーの演算子は 22m2+V(r)\displaystyle -\frac{\hbar^2}{2m} \nabla^2 + V(\bm{r})角運動量の演算子は ir×\displaystyle -i\hbar \bm{r} \times \nabla といった具合に、 粒子の他の物理量の期待値についても、波動関数のみから求めることができます。


ここまで、式はとても複雑でしたが、波動関数から粒子の諸々の性質も求めることができる ということがわかったのではないでしょうか。

波動関数は、量子力学において 粒子の性質を表す数式 であり、量子力学における中心的な概念です。 そして、波動関数は シュレーディンガー方程式 を満たし、その解析によって粒子の性質を求めることができます。

もし、詳細を知りたいと思った場合は、量子力学の基礎的な参考書やサイトを見てみるといいでしょう。 ただし、高度な数学の知識が必要になる点には注意してください。